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「今日君がどこへ行っていたか、俺はもう知っている。さっき美里さんから電話があった。……彼女と一緒に、イタリアへ行くつもりなんだろう?」
彼が全て承知と知り、花衣はハッと顔を上げた。
涙に濡れた顔を見下ろし、一砥はその頬を優しく手の平で拭った。
変わらずその瞳は優しく凪いで、彼女の決断を責めている風ではなかった。
花衣はその目を見ているだけで、甘い感傷が胸を浸すのを感じた。
「出立は一週間後だと聞いた。美里さんは今回の件を知らないが、君の様子で何かを察したらしい。しばらく君を借りるから、その間に互いの今後について冷静に考えてはどうかと、そう助言された。彼女は俺達が別れる前提で言っているが、俺は違うと思っている。……花衣」
「はい……」
「俺は確かに間違いを犯した。だがそれは本当に許せないものなのか、俺と離れている間に、どうか考えて欲しい。美里さんはイタリアにデザイン事務所を立ち上げ、しばらくあちらに住むそうだ。そして君を、助手にして育ててみたいとも言っていた。君はそのまま彼女の下でデザインの勉強をすればいい。だが俺を許してくれるなら、一度帰国して欲しい。いつでもいい。結納は延期する。挙式予定も白紙に戻す。何ヶ月、何年かかってもいい。俺はいつまでも待つ」
「一砥さん……」
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