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今そんな会話を交わしながら、花衣はもう、自分の決断を後悔し始めていた。
昨晩、美里からイタリアへ移る話を聞き、一緒に来ないかと誘われた時は、正しく天の啓示だと思った。
これが自分の選ぶべき道だと信じ、今朝早く、誰にも行き先を告げずに美里のオフィスを訪ね、雇用契約書を交わして来た。
昨晩一睡もしていなかったため、ビジネスホテルで仮眠を取り、一砥と別れ話をする覚悟で帰宅した。
いくら一砥の方に非があったとは言え、勝手にイタリア行きを決め、一方的に別れ話をすれば、さすがに彼も愛想を尽かすだろうと思っていた。
けれど彼は、全く動じなかった。
衝動的に二人の今後を決めてきた花衣を責めず、自分の過ちのみを認め、彼女の勝手を許すばかりか、いつまでも待つと言ってくれた。
いっそ口汚く責められた方がマシだ……と花衣は思った。
(だって、だって私が、イタリアへ行くのは……)
「……違うんです」
涙まじりの湿った声で、花衣は小さく反論した。
「一砥さんが、悪いんじゃないんです……。私が、私がただ、勇気がないだけなんです……」
肩に置かれた手の温もりに励まされながら、花衣は秘めていた本心を明かした。
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