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「伯父と叔母から、聞いたんです。母が私を引き取った理由と、本当のことを父に言えなかった事情も……。父は小さなオーダースーツの店を持っていましたが、ずっと赤字経営で、我が家の家計は母が支えていました。そのことを父はずっと引け目に感じていて、だから、父を一途に愛していた母のことを疑って、私が自分の子じゃないって知った途端、母が浮気したんだって決めつけて……。もし父が景一伯父さんのようにちゃんと調査をしていれば、母への疑いは晴れたはずなんです。ずっと父を騙していた母も悪いけれど、簡単に母を疑った父も、結局母を信じていなかったんだって、そう思いました……」
一砥は黙って、彼女の話を聞いていた。
花衣は床に置いた自分の手を見つめ、「だから……」と続けた。
「私はそんな、父と母のような悲しい夫婦にはなりたくないって、そう思いました。だから一砥さんとの間に、なんの秘密も作りたくなかったし、何でも正直に話せる関係でいたいって……。それなのに、私もずっと、あなたに嘘をついていました」
自分でも直視したくなかった、醜いエゴをさらけ出し、花衣は言った。
「私、亜利紗がずっと羨ましかった。いい家柄の裕福な実家に生まれて、周囲から大事にされるのが当然の立場にいて、どこに行っても敬われ丁重に扱われる彼女が、心の底から羨ましくてねたましかった。自分も彼女のような家の生まれなら、一砥さんの隣にいても何にも恐れるものなどなくて、あなたの妻としていつでも堂々と振る舞える、そう思ってた……」
告白するごとに空気はその濃度を増し、花衣は吐き出す言葉の重さに耐えるように、自分の胸を片手で押さえた。
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