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「だけど原因は、生まれた家じゃなかった。高蝶の家の娘だと知っても、私の劣等感は消えていません。あの家の異常さを知り、お金持ちだからって人間的に豊かなわけじゃないと知った今も、私のあなたに感じる引け目は消えていません」
言いたくて言えなかったことを、花衣はこれが最後とばかりにぶちまけた。
「別れ話をしている、今もそうです。あなたは変わらず立派で素晴らしい男性で、世界中のどんな場所でも己を恥じることなく堂々と振る舞える人です。けれど私は違う。このままあなたと結婚したら、私はずっと卑屈な劣等感を抱えたままでいて、いつか亡くなった父のように、自分が愛する人すら真っ直ぐな目で見られなくなるかもしれない。それが、たまらなく怖いんです……」
馬鹿な発言をしていると思いながら、花衣は今の思いをありのまま偽らず語った。
「イタリアへ行くのは、半分逃げです。海外へ行って何が出来るかなんて分かりません。結局どこへ行って何をしても、私の自尊心の低さは変わらないままかもしれません。私はそんな女です。卑屈で自分勝手で、こんな私を好きだと言ってくれるあなたを置いて、イタリア行きを勝手に決めるような、馬鹿で冷たい人間です」
全ての告白を終え、花衣は悄然とうなだれた。
その横顔を、一砥は無言で見つめた。
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