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「……花衣。悪いが俺は、君の気持ちは分からない。俺は生来、他人と自分を比較して劣等感を抱いたことなどない。だが君が言うような立派な男ではないと断言出来る。君はまだ俺を知らないんだ。俺がどれほど弱くて情けないヤツかってことを」
「そんな……」
「本当だ」
片膝をついた姿勢で、一砥は花衣の肩に置いた手をその頬へ移した。
その時、花衣は、彼の手が微かに震えていることに気づいた。
「ほら、もうすぐ君と離れるかもしれないと思っただけで、このざまだ。本当は俺だって怖い。君を一人でイタリアへなんか行かせたくない。出来るなら一生あのマンションに閉じ込めて、俺一人のものにしておきたい……」
「一砥さん……」
情けない本音を晒し、一砥は力無く笑った。
「そうなんだ。俺は情けない男なんだ。君を失うことがたまらなく怖い。君を手放したくない。跪いて泣いて乞えば、君がこのまま側にいてくれると言うなら、いくらでもそうしよう。……だがそんなカッコ悪い男なんて、君も嫌だろう?」
自嘲の笑みを浮かべ、一砥は小首を傾げた。
「ああ……」
今にも泣きそうなその顔を見て、花衣はたまらずその首にしがみついた。
震える体でしがみついて来た彼女を、一砥も弱々しく抱き締め返した。
「君が思う以上に、俺は君が好きなんだ。もう君なしでは生きられないほどに、君にどっぷり依存している。俺が君を助けてるんじゃない。君が俺を支えているんだよ……」
「一砥さん……」
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