第十五話「それぞれの思い」

44/44
前へ
/44ページ
次へ
 互いを強く抱き締め、激しく深く、口づけを交わす。  長い長いキスを終え、荒い息を吐きながら、一砥と花衣はまた無言で見つめ合った。 「……ここじゃダメだ」 「うん……」 「俺の部屋に行こう」  言うなり立ち上がり、一砥は彼女の手を引いた。  花衣も逆らわず、引かれるままその後に従った。  一砥は急いで玄関に戻ると、靴棚の上に放っていた自分のジャケットを掴んだ。  ちょうどそのタイミングで廊下に出て来た奏助に、「悪い。今日はもう戻らない」と短く告げる。 「え? ちょ、一砥……」  トイレの帰りだった奏助は、慌てた足取りで出ていく一砥と花衣を見送り、その場にポカンと立ち尽くした。 「え。今あいつ、今日はもう戻らないって言った? え、何で……?」  室内での二人のやり取りを知らない奏助からすれば、それは当然の疑問だった。  まったく状況が読めないまま、不憫な彼は呆然と呟いた。 「ていうか、俺が皆に報告するの? 今度は一砥と花衣ちゃんが二人で消えましたって? ……マジ?」 第十六話へつづく>>>     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

438人が本棚に入れています
本棚に追加