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互いを強く抱き締め、激しく深く、口づけを交わす。
長い長いキスを終え、荒い息を吐きながら、一砥と花衣はまた無言で見つめ合った。
「……ここじゃダメだ」
「うん……」
「俺の部屋に行こう」
言うなり立ち上がり、一砥は彼女の手を引いた。
花衣も逆らわず、引かれるままその後に従った。
一砥は急いで玄関に戻ると、靴棚の上に放っていた自分のジャケットを掴んだ。
ちょうどそのタイミングで廊下に出て来た奏助に、「悪い。今日はもう戻らない」と短く告げる。
「え? ちょ、一砥……」
トイレの帰りだった奏助は、慌てた足取りで出ていく一砥と花衣を見送り、その場にポカンと立ち尽くした。
「え。今あいつ、今日はもう戻らないって言った? え、何で……?」
室内での二人のやり取りを知らない奏助からすれば、それは当然の疑問だった。
まったく状況が読めないまま、不憫な彼は呆然と呟いた。
「ていうか、俺が皆に報告するの? 今度は一砥と花衣ちゃんが二人で消えましたって? ……マジ?」
第十六話へつづく>>>
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