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「あの人は私の幼馴染で、兄と妹のように親しくしていた人でした。彼は私の家の事情もご存知で、私が長女を養子に出した相手が、大学の後輩だった香代さんと知り、一度会ってはどうかと提案してくれたんです。そして彼が空港近くのホテルを取ってくれて、私は十八年ぶりに香代さんと会いました。その後で、一喜さんと香代さんは友人の結婚式に出席するため、大阪行きの便に乗り……帰らぬ人となったのです。彼らがあの飛行機に乗ったのは、つまり、私のせいなんです……」
罪を告悔する信徒のように、華枝は全ての事情を明かした。知らなかった事実が次々と明るみになり、景一も香奈も、そして花衣も、ただ呆然とする他なかった。
全てを話し終えると、華枝はまた両手で顔を覆って号泣した。
「全て、全て私のせいなんです……! ごめんなさい……本当にごめんなさい……!」
「高蝶さん……」
高級なドレスが汚れるのも構わず、床に跪いて許しを乞う高蝶華枝の姿は、景一と香奈の心に哀れみの情を呼んだ。
だが花衣だけは、硬い表情を崩さなかった。
彼女は華枝の独白を、ほとんど聞いていなかった。
当然、話は耳に入って来ていたが、花衣の心に突き刺さったのはただ、「高蝶の家では双子は不吉と言われていたから、自分は養子に出された」という事実のみだった。
(そんな、そんな理由で、私は捨てられたの……。そんな下らない迷信で、この人は私を、知り合ったばかりの赤の他人に……)
涙ながらに謝罪する華枝の顔を、花衣は気持ち悪い生き物を見る目で見下ろした。
花衣には理解出来なかった。
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