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高蝶家が数百年続く名門の家柄だということは知っている。だが、それが親が我が子を捨てる理由になるだろうか。「双子は不吉」というただそれだけの言い伝えで、この平成の時代に、彼らは平気で子を捨てられると言うのか。
「花衣……」
その時、華枝の左手が伸びて来て、膝に置いた花衣の手に触れた。
その瞬間、言葉に表せないほどの嫌悪感が、足元から背筋を伝って花衣の全身を駆け上った。
咄嗟に手を振り払い、花衣は急速に込み上げて来た嘔吐感に、口元を押さえた。
「叔母さん、私、吐きそう……」
花衣が青い顔で訴え、香奈は「えっ」と叫んで腰を上げた。
「高蝶さんっ、洗面所、トイレはどこですか!」
大声で問われ、華枝は「あ、あのドアです」と隅の扉を指差した。
「花衣、ちょっと我慢できる?」
香奈は花衣の体を支えると、急いでそのドアの先に向かった。
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