438人が本棚に入れています
本棚に追加
第十五話「それぞれの思い」
1
その日、亜利紗は撮影で都外に出ていた。
帰宅は深夜の予定で、花衣から電話が掛かって来た時は、ちょうど遅い夕食休憩を取っていた。
「もしもぉーし。どうしたのー?」
いつもの口調で電話を受けた亜利紗は、花衣の「亜利紗……」といういつもと違う声を聞いて、表情を変えた。
「あの、いきなりごめんね……」
「え。何、どうしたの」
「その、ちょっと確認したいことがあって……」
「確認?」
「その……」
花衣は一瞬躊躇った後に、切羽詰まった声で訊ねた。
「亜利紗が産まれた病院って、静岡にあるM産婦人科医院てところ?」
「えっ?」
「ごめんね、変なこと聞いて。だけど大事なことなの」
「……私が産まれた病院が、どうかしたの」
一つの予感を覚えながら、亜利紗は逆に質問を返した。
花衣はそれに答えず、「今は言えないの。お願い、亜利紗。亜利紗の産まれた病院は、静岡のM産婦人科医院で合ってる?」と繰り返した。
嘘をつくことは出来ず、亜利紗は「そうだけど……」と答えた。
電話の向こうで、花衣の「ああ……」と重い息を吐く音が響いた。
「教えてくれてありがとう……」
「花衣っ……」
最初のコメントを投稿しよう!