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悔しくて涙が出てきた。
お菓子の本の表紙では、相変わらず女の子が微笑んでいる。
欲しい物はいっぱいあった。ピアノ、ワープロ、ハムスター。
大人になって働いて、自分で好きなものを買えるようになったら絶対買うんだと決めているリストのトップに、この時オーブンが追加されたのだった。
それでもせっかくお菓子の本を買ったのだ。オーブンが無くても作れるお菓子もあるはず。
お腹が満たされて少し落ち着いたわたしは、べたつく指で本のページをめくっていった。
その本は入門というだけあって、生クリームの泡だて方や小麦粉の種類についても書かれていた。
そして見つけたのである。
「オーブントースターでクッキーを焼く方法」
それはわたしにでも出来る方法だった。
アルミホイルを三枚ほど重ねて、クッキー生地の上に被せるだけ。
三回目でようやく食べられるものが完成したのだ。
二十年近く経った今、わたしは憧れのオーブンを手に入れ、ショートケーキもシフォンケーキも作れるようになった。
今では、バレンタイン前には娘と一緒に大量のクッキーを焼いている。
もしあの時、あの一冊のお菓子の本を買わなかったら、今もわたしはこの匂いを知らなかったかもしれない。
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