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友達の家ではお母さんがクッキーを焼いたり、マドレーヌを作ってくれていた。
母親のいないわたしは密かにそれに憧れていた。
作ってもらえなければ自分で作ればいい。わたしは手先は器用な方だ。……と思う。
ただうちにはそもそも道具がない。今なら100均のお店にいけばクッキーやマドレーヌの型も、粉ふるいも麺棒もなんだってある。子どものお小遣いでも十分揃えることができる。
が、当時はまだそんなお店は、少なくともわたしが自転車で行ける範囲にはなかった。
それでも一度作りたいと思ったら作るまで諦めきれない性格だった。無い物は他の物で代用する、あるいは自分で作れる物は作ってでも、わたしはクッキーを自分の手で作りたかった。
わたしはまずお菓子の本を手に入れることにした。
近所の小さな書店に行って、お菓子の本を探した。
選べる程の種類はなかった。
道具もないくせに、なんちゃってではなくきちんとした物を作りたいという欲求だけはある。
選んだ本は可愛い女の子のイラストが前面に押し出されたお菓子作り入門。クッキーからスポンジケーキ、果てはお菓子の家なんて手の込んだものまで載っている。
これだ!
まずはその本を買うだけで、わたしの少ないおこづかいは飛んでいってしまったのだった。
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