お へ ん じ

6/8
前へ
/14ページ
次へ
本屋の前を通ると、アタシが好きな小説家の、新作ポスターが飾ってあった。 「なぁ、本屋寄ってもいいか?」 「お、なに?エロ本見んの?」 「大胆だなー」 他の奴らがおどけて言う。 「んなわけあるか」 「攻略本見たいし、俺も行くわ」 全員で本屋に入ると、アタシはすぐに、お目当ての本を手に取った。 出入り口付近に山積みになってたから、すぐに分かった。 本当は本を読んでる余裕なんてないけど、気を紛らわせるものが欲しかった。 先に会計を済ませて、外で本を読んで待つことにした。 2ページほど読んだところで、皆が戻ってくる。 「なんだ、外で待ってたのか」 「中じゃ流石に読めないしな」 アタシが本をしまおうとすると、メンバーのひとりが本を取り上げた。 「これ、このポスターのやつじゃん」 「へぇ、本格ミステリとか似合わなっ」 普段はいいが、今は本当にやめてくれ……。 「返せよ」 アタシが取り返そうとすると、本は更に高い位置に持ち上げられた。 「そもそもこんなちっちぇ字、ちゃんと読めてんのか?」 ここまで言われると、泣きそうになる……。 「やめてやれよ」 ナオは本を取り返してくれて、アタシに渡してくれた。 「マコは別に目が悪いわけじゃねぇし、小説くらい読めんだろ。つーか、さっきのはタチ悪いぞ」 ナオはそう言うと、気を遣うようにアタシを見た。 よりによって、今優しくされると胸が痛い……。 「別にいいって。んじゃあな!」 アタシはできるだけ明るく言うと、本を抱えて駆け出した。 呼び止める声が聞こえたけど、止まれるわけないじゃん……。 こんなに寒いのに、泣いてるせいで顔が熱い。 アタシはうつむき気味になりながら、家まで走った。 今日ほど親が共働きで、家にいない事を感謝した日はない。 部屋に走ってベッドにダイブすると、アタシは大声でみっともなく泣いた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加