7人が本棚に入れています
本棚に追加
苦しくて、喉や食堂がキュッとなった。
アタシは水道の蛇口を上に向けて、思いっきり捻ってがぶ飲みした。
お腹の中は水で満たされてタプタプ揺れるけど、心はちっとも満たされない。
「お、マコ。ついに女装がバレて逃げてきたのか?」
振り返れば、いつものメンバーがいた。もちろん、ナオも……。
「隠れ巨乳でもいたか?あとでこっそり教えてくれよ」
ナオはそう言って笑った。冗談でも、ナオが他の女の子に興味を示してるのは嫌で嫌で仕方ない。
今なら痛みが、クリアに広がる。
「張本さんの下着姿でも、こっそり拝んでくるよ」
アタシはマドンナの名前を出して笑って誤魔化すと、更衣室に戻った。
時計は授業開始2分前を指している。そんな時間に更衣室にいるのは、アタシひとり。
体育の授業は大好きだけど、とても体育館へ行ける状態じゃない。
「神様……。今だけは、許してください……」
柄にもなく神様にお祈りして、声を殺して泣いた。
人を好きになるのが、こんなに辛いものだなんて思ってもいなかった。
そもそも、自分が誰かを、よりによってナオを好きになるだなんて……。
ナオから見たアタシは、男友達のひとりに過ぎない。
好きになった瞬間から、アタシの失恋は確定している。
それでも好きだから、アタシはそばにいたくて、ナオの男友達のままでいると決めた。
バレンタインになると、例の女子グループは、更衣室で話してたチョコレート配布作戦を始めた。
ナオが好きだって言っていた女の子は、緊張した面持ちで、可愛いラッピングの箱をナオに渡していた。
その子はアタシのところにも来て、チョコをくれた。ナオに渡したのとは明らかに違う、ハートがたくさんプリントされた小さな袋。中にはチョコカップケーキが入っている。
「ありがと」
無理やり笑って、お礼を言う。
最初のコメントを投稿しよう!