お へ ん じ

4/8
前へ
/14ページ
次へ
「ねぇ、山根さん。聞きたいことがあるんだけど……」 その子は声をひそめて言う。嫌な予感しかしない。 「なんだ?」 あくまでも気づかれないように、いつも通り明るく聞き返す。 「山根さんって、梨野くんのこと、好きなの?」 その子はぱっちり二重の大きな目を潤ませながら聞いてくる。 そんなの、答えられるわけないじゃん……。 「んなわけないじゃん。ただのダチだって」 「そっか、よかったぁ……。じゃあ、頑張ってみちゃおうかな。ありがとね」 その子はホッとしたような顔をすると、アタシの席から離れた。 アタシが、あの子に勝てるわけがない。 だってあの子は、マドンナの張本さんなんだから……。 「おいマコ、見てくれよ!こんなにチョコもらっちまった!」 ナオはいいだろ、と誇らしげに、アタシの机に可愛いラッピングを並べる。その中で一際目立つのは、張本さんの本命チョコ……。 「アタシだってたくさんもらったぞ!」 悟られまいと、明るく振舞って、朝から部活の後輩達からもらったチョコを並べる。 数は圧倒的にアタシのが多いけど、言いようのない虚しさに、胸が押し潰されそうだ……。 「くっそー、負けた……。で、でもマドンナからこんなのもらったんだ!もしかしたら、本命かも!」 ナオは張本さんからもらった可愛いラッピングの箱を掲げる。 頼むから、そんなに嬉しそうに見せつけないでくれ……。 「なーに言ってんだよ。それは当たりであって、本命なんかじゃないぞ」 「当たり?」 「最後のバレンタインだから、男子全員に作ろうってなったらしいぞ。んで、皆一緒じゃつまんねーから、1個だけ豪華なの作って当たりにしよう、だってよ」 「なんでお前がそんな事知ってんだよ?」 「更衣室で聞いた」 まぁ、これは建前で、ナオが持ってるのは張本さんの本命チョコなわけなんだけど……。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加