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「ねぇ、山根さん。聞きたいことがあるんだけど……」
その子は声をひそめて言う。嫌な予感しかしない。
「なんだ?」
あくまでも気づかれないように、いつも通り明るく聞き返す。
「山根さんって、梨野くんのこと、好きなの?」
その子はぱっちり二重の大きな目を潤ませながら聞いてくる。
そんなの、答えられるわけないじゃん……。
「んなわけないじゃん。ただのダチだって」
「そっか、よかったぁ……。じゃあ、頑張ってみちゃおうかな。ありがとね」
その子はホッとしたような顔をすると、アタシの席から離れた。
アタシが、あの子に勝てるわけがない。
だってあの子は、マドンナの張本さんなんだから……。
「おいマコ、見てくれよ!こんなにチョコもらっちまった!」
ナオはいいだろ、と誇らしげに、アタシの机に可愛いラッピングを並べる。その中で一際目立つのは、張本さんの本命チョコ……。
「アタシだってたくさんもらったぞ!」
悟られまいと、明るく振舞って、朝から部活の後輩達からもらったチョコを並べる。
数は圧倒的にアタシのが多いけど、言いようのない虚しさに、胸が押し潰されそうだ……。
「くっそー、負けた……。で、でもマドンナからこんなのもらったんだ!もしかしたら、本命かも!」
ナオは張本さんからもらった可愛いラッピングの箱を掲げる。
頼むから、そんなに嬉しそうに見せつけないでくれ……。
「なーに言ってんだよ。それは当たりであって、本命なんかじゃないぞ」
「当たり?」
「最後のバレンタインだから、男子全員に作ろうってなったらしいぞ。んで、皆一緒じゃつまんねーから、1個だけ豪華なの作って当たりにしよう、だってよ」
「なんでお前がそんな事知ってんだよ?」
「更衣室で聞いた」
まぁ、これは建前で、ナオが持ってるのは張本さんの本命チョコなわけなんだけど……。
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