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僕が空を見上げるときは、大抵なにか良くないことがあった時だ。きっと空から天使が舞い降りて、みじめな僕を助けてくれるーそんなことを考えながら病院の庭先で今日も僕は空を眺めていた。
病院の隣にある公園から、サッカーボールを追いかけてはしゃぐ子供たちの声が聞こえてきた。僕もひと月前はあの子たちとなんら変わらなかったはずなのに。
どこまでも突き抜けていくような青い空は、僕の悩み事など気にも留めていないように、僕のことを見下ろしていた。
「そんなところでぼーっとしてなにしてるの?」
青一色だった僕の視界は、突然覗き込んできたその子によって遮られた。背後から不意を突かれたこと、それに加え、僕には一瞬その子のことが本当に天使のように見えて、僕は返事に手間取った。
しかし、そんなことはお構いなしに、その子は一人で話し続けた。
「最近、いつもここにいるよね」
その子は病院の中でたまに見かけるー名前は確か「まり」というー女の子だった。改めて見ても、長くてきれいな髪の毛や白くて細い手足をしたその子は、背中に羽が生えていたとしてもおかしくないように思えた。
「特になにもしてないよ」
僕はこの足の怪我で入院してからというもの、極端に人とかかわることを避けるようになっていた。そんなわけもあって、それまで僕らは病院内でたまに顔を合わせることはあっても、おそらく同年代であったにもかかわらず、会話をしたことはほとんどなかった。
「じゃあ、私の話し相手になってよ」
そんな不愛想な僕の態度など意にも介さず、まりは笑って見せた。
「良いけど僕は、話したいことなんてなにもないよ」
この時僕がこの場を立ち去らなかったのは、見ず知らずの人間のために、わざわざ自分がーただでさえ慣れない車椅子なのにー移動するのは、癪だと思ったという理由だけだった。だから僕はほとんど上の空で、まりの話していることなど聞いていなかった。
ただ最後に「明日もいるよね」ーそう言われた時、僕の口から「うん」という音が発せられたのには、自分自身でも驚いていた。
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