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「その涙を雲鯨は地上に降り注がせます。そして、強い想いが溢れた時、雲鯨は僅かな期間だけ魂に仮の肉体を授け、地上に降ろします」
空の雲鯨を見つめ語り続けていたハンスが、地上のソフィアを見つめる。
「俺はソフィアさんに逢いに来ました。正しくは、俺と同じ雲鯨の中に溶け込んでいた彼女の魂が……」
そう言うなり、ハンスの表情が変わった。男性的な雰囲気が和らぎ、女性的な柔らかさを纏った優しい笑顔に……。その変化に、ソフィアは両手で口を押さえ、声ではなく涙を溢れさせた。
「……ごめんね、ソフィア。すぐに逢いに来れなくて」
ソフィアはハンスの中に現れた女性の存在に驚愕した。だが、その驚きはすぐに溢れんばかりの歓喜に変わり、勢いよく抱きついた。
「リーザッ! リーザなのねっ」
触れているのは硬い男性の身体なのに、女性のふくよかな柔らかさを感じる。そして、なつかしく、大好きな温もり。ソフィアは肌に伝わる感覚に喜び、大粒の涙をこぼしていた。
「どうして貴女の姿じゃないの? どうして、すぐにリーザだって言ってくれなかったの?」
愛しいリーザの胸の中で、ソフィアは次々と疑問をぶつける。
「本当にごめんなさい。この姿は仕方ないのよ。魂だけの私たちは、雲鯨の中で溶け合っていて、記憶も同じように溶け合っているの。この姿は誰かの記憶が作り上げた姿なの。……だから、怖かったの」
「怖かった?」
「うん。この姿は女のものではない。しかも、貴女が好きだって言ってくれた金色の髪でもない。この姿で私だって名乗っても、貴女は信じてくれないのではと思って。それどころか、拒絶されてしまうんじゃないかって……。それが怖くて、貴女の姿を見た瞬間に私は記憶の奥に閉じ籠ってしまった……」
「そんなっ! 信じないわけないわっ。だって、私、ハンスさんを見た時、すごく懐かしい気持ちになったの。どうしてだろうって思ってたけど、あれはリーザだったからなのね」
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