雲鯨の旅路

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 荷物で重くなった籠を抱え、坂道を進んでいく。町の整備された石畳の道とは違い、土を踏み固めただけの粗悪な道。重い荷物を持っての歩行は、若いソフィアであっても変だった。  ソフィアは町から離れた場所にある小高い丘の上に住んでいる。丘には小屋のような民家が数件あるが、今はどこにも人は住んでいない。緑に囲まれた丘は空気も澄み、見渡せる景観も素晴らしい。だが、やはり町への往来は不便で、人々はより便利な場所へと生活の場を移していた。そんななかで、ソフィアは町から丘の上に生活の場を移した珍しい存在だった。  ソフィアは丘の最も高い位置にある家へと急いでいたが、ふいに足を止め空を見上げた。彼女の頬には雫が涙のように一筋流れていた。 「何だか、今年は数が多いわね」  茜色に染まり始めた空には、昼間と同じように雲鯨が泳いでいる。その数は昼間と比べ目に見えて増えていた。  雲鯨は約一ヶ月間、人々の頭上を漂う。最初は数頭だが、しだいに数を増やし、多い時で数十頭という大群になる。昼間は、まだ一、二頭だったのだが、今はすでに十頭近くいる。  いつもとは様子の違う雲鯨に、なぜだか胸の奥がざわつく。  ――早く、帰ろう。ソフィアは止めていた歩みを再び進め始めた。
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