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気持ち歩みを早め、もうすぐ家に着くという時、なぜかソフィアは再び足を止めた。彼女はある場所を見つめ、訝しげに眉間に皺を寄せていた。
自然に溢れているが閑散とした丘の上の小さな一軒家。ソフィアは数年前からその家を借り、暮らしていた。丘で暮らす人がいなくなったように、わざわざ丘の上を訪ねてくるような人もいない。……そもそも、ソフィアを訪ねて来るような人間はいないはずなのだが、彼女の家の前には、たしかに人影がある。
入り口の前に立つ一人の男。もしや強盗かと身構えるが、こんなみすぼらしい家に盗みに入るような奇特な強盗もいないだろう。それに、男の様子は侵入経路を探るというよりも、本当にぼんやりと立ち尽くしているだけといった感じだった。一見、不気味な感じはするが、不思議と悪い感じはしない。ソフィアは警戒しつつ近づき、男に声をかけた。
「……あの、家に何かご用ですか?」
間近まで近づいても気づかなかった男は、背後からの声に酷く驚いたように肩を跳ねらせた。呼吸を整える素振りを見せた男が、深く息を吐き出しゆっくりと振り向いた。
「…………あ」
小さくこぼれた声。それは、二人の口から同時にこぼれたものだった。
男は知らない人だった。なのに、彼の顔を見た瞬間、ソフィアの胸には言葉では言い表せられない感情が溢れ、吐息のような声となって出てきてしまった。見知らぬ男に抱くはずのない感情だと分かっているのに、消えることなく広がっていく想いに突き動かされ、ソフィアはもう一度声をかけようとした。
「あの、あなたは……」
男はその問い掛けに応えるように、微笑んだ。しかし、はっきりとした言葉が出る寸前に、男は倒れてしまった。
「えっ!? あのっ、大丈夫ですかっ」
困惑するソフィアの声に応えることもなく、男は完全に意識を消失させてしまっていた。
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