0人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしだけが例外というわけではない。
その証拠に、第2層・addressで暮らす大半の住民は毎月ベーシックインカム制度で支給される貨幣と一緒に配布されるM・ウイルス抑制剤を裏路地で現金化している。
どうしてそんな愚かなことをしているかって?答えは簡単さ。
自分の命の価値を理解できていないからさ。使命感も与えられず、ただ、命を腐らせるだけの私達。ただ、それは誰も責めることはできない筈だ。そんな権限は誰も持っていない。途方もなく大きな何かのために生かされているだけだと悟った以上、そうなるのは仕方ないと言えるしね。
「では何故、第3層・FARMに移住したいと」
面接官のヴァーリ・トゥートゥが怪訝そうな表情でわたしを見つめる。そんなにわたしが珍しいかね?
「わたしの姿を見たらわかるだろうけれど、だいぶM・ウイルスにやられちまってね。このまま黙ってダラダラ死に向かうのがどうかなって。どうせ死ぬなら何か信念とかを持ってから死にたいからさ」
「つまり、ここを自分の棺桶にしたい。そういうことかね」
「そういうこと。わたしの身体なら十分募集項目を満たしているだろ?なんたって侵蝕率55パーセントオーバーだ。募集項目では30%以上の侵蝕率が条件だったろ?」
「確かにその通りだ。しかもまだ肉体改造を施していないオーガニックときた。いいだろう。入隊を認める。貴様の命は我が部隊で使わせてもらう」
ヴァーリ・トゥートゥ部隊の主な役目は、放棄された第1層・NO・DATAの除染活動が主だった。非公式組織である衛星管理委員会の名の下で第1層の除染活動を行うこの部隊は、どういうわけか死亡率が高く、原因も公表されない。噂では無断で地上に行き、資源を回収しそれを第4層裏路地に流しているだとか、その利益でHALLの全体を支配しようと企てているとか、とにかく黒い噂が絶えない職場だった。
そんな場所でわざわざ働く理由?もちろん信念を持って死にたいという臭い理由ではない。
最初のコメントを投稿しよう!