加治木の二太郎

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 昭和後期の12月5日午前9時15分。その日も青い空だった。 鹿児島県姶良市加治木町の第二産婦人科で二人の薩摩隼人が時を同じくしてこの世に生を受けた。 二人の看護士が待合室で待つその日父親となった二人の男にそれぞれ声をかける。 「加治木さま!お生まれになりました、元気な男の子です」 「ちっ・・・生まれちまったか・・・」 昼間から赤ら顔の方の父親はこう狼狽した。 「中村さま・・・お生まれになりました・・・男の子ですが・・・片目が・・・」 「そうか!ついに!これで我が一族は!!・・・」 もう一人の修験者のような険しい瞳をした父親は桜島噴火の爆音にも勝る勢いで激しく咆哮した。 この時のそれぞれの父親の反応を生まれたばかりの小さな二人の薩摩隼人は知らなかった。 そして二人が同じ日同じ時にこの世に生を受けたという運命も。  二人は作家で知られる椋鳩十がかつて教鞭を取っていたという加治木町の錦江(にしきえ)小学校で同じクラスになった。二人ともいじめられっ子同士だった。 小学生という幼年期は、いつの時代も大半の学校・組織で勉学より腕力や体術に優れた男達が覇権を獲る。 この薩摩の小学校でもそれは例外ではなかった。
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