龍三の恋

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龍三の恋

龍三はお墓の前に立っていた 貴子の、墓。 どんなに調べてもわからなかった場所 貴司を引き取ってから、やっとわかりーー毎月の月命日には訪れていた 貴子。 貴司の母親。 龍三が、唯一愛した、女。 当時の高円寺家はまだ力がなく、恋に落ちた貴子との仲は引き裂かれた 一度は放棄した、後継ぎの座 駆け落ち同然の暮らし 工場であせみずたらして働いてーー貧乏だったが、幸せだった 幸せ、だった たった、10か月ーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 今にも泣きだしそうな、空。 「天気予報、外れだな」 チッと舌打ちして歩くと、ザッと大きな雨粒が落ちる 容赦なく叩きつける大粒の雨。 近くに適当な店もなく、 この近くの公園に屋根付きのベンチがあったことを思い出した19歳の龍三は その場所を目指して駆け出した 雨が凄すぎてけぶるような視界の悪さ。 息を弾ませてやっと目的の屋根の下に入る 叩きつける雨音が激しい すぐには止まないだろう、と思った 「…はあ‥」
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