待ち人、未だ至らず

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といって、非生産的で不合理な行為で残り少ない選択の余地を自ら削り落として転落していく不条理極まりない上の世代の結果を見て育ってしまった僕たちは、ヤケになって自分の人生を投げ捨てる自由すら享受する気にもなれずただひたすらロウソクが燃え尽きるのを待つような精神修養めいた青春が流れ去っていくのを傍観しつづけており、そんな傾向を熟知している警察その他世間の秩序を守る正義の味方たちは凶悪化の一途を辿るより大きな事件へとリソースを傾けている事情から、こうして誰に咎められることもなくほっつき歩けるという訳である。 実際昨今は少年犯罪は減少著しく、相対的に中高年の引き起こす事件事故が目立っているそうだ。失うものが多い人ほど大変なのだなあ、とニュースを見ながらなにやら憐憫の情を抱いたものだ。 「しかしまあ、今どき星を見ようなんて物好きも珍しいよね」 「ふふふ、さにあろう。今日見に行くのは世にも稀なる満天の星空というものです」 「満天って、星なんて見上げりゃいつでも見れんじゃん」 「イヤイヤ、自分の狭い常識で物を語ると恥をかきますよ君」 「うっわえらそー」 なんとでも言い給え、と得意気に鼻を高々と差し上げるその顔は僕より頭一個低い位置で踏ん反っている。50mを8秒で駆け抜けるその健脚でイチョウの葉を踏みしめながら、僕の半歩先で彼女はそう言って快活に笑った。 品行方正成績優秀で通る彼女からこの提案を聞かされたときは、少々面食らった。今どきの高校生が行くような場所だろうか。どうせ遊びに抜け出すならもっと享楽的な施設が腐るほどあろうに。 そう思わないでもなかったが、 『…だめかな』 とはにかんだ表情で言われてしまえば否やという選択肢はなかった。
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