待ち人、未だ至らず

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公園の側道を突き当たりまで歩き植え込みの角を曲がると急に視界が開け、まあるで末広がりの奇妙なヤカンのような、円筒状の建物が見えてくる。天文台隣接の博物館は、他の客の姿もなく閑散というにもさみしい雰囲気を纏っていた。 「しかし寂れてんねー。話題の業界でしょーに」 「ブームなんてとっくに終わってるからねえ。最近じゃ税金泥棒なんてひどい言われ様も」 薄汚れた白い外壁を眺めながら入り口を覗く。 受付カウンターの中で本を読んでいる、おそらくは定年を迎えて間も無いと思われる白髪の男性に入館の意思を伝えると、一瞬意外という素振りを示し、慌てて取りつくろうかのようなばつの悪そうな顔をされた。 「...学生さんですか?EPASSの御提示を、ああ、はいありがとうございます。それでは入館は無料ですので、ごゆっくりご覧ください」 「…なんかすごく不思議そうな顔されたね」 「まあ若いもんが見に来るもんじゃあねえ、ってことですかね」 ガラス戸を押し開け、展示室に入る。広い館内を贅沢に使用して視覚的な効果を考え抜かれた展示物が広がる中誰もいない空間を進み、奥の目的地へと向かう。 太陽系の成り立ちや宇宙の構造などといった展示物と並んで目に付くのは、やはり例の探査ミッション関連の展示だった。 近傍小惑星への探査ミッション。全世界が注目したのも今は昔、十五年も過ぎ人々が期待したような成果は得られなかったという結論に至った今ではもはやその話題が人の口に登ることもない。所狭しと並ぶ貴重な資料群は、文字どおりの敗軍の墓標だ。傷だらけのミッションマネージャーの顔パネルに貼られた「展示物への毀損は法律により罰せられる場合があります」という注意書きが虚しい。 彼は今、何を思うのだろう。 「よし!ここだ」 彼女が立ち止まり見上げた先には、「プラネタリウム」の文字が控えめな書体で輝いていた。
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