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「えーっと、上映スケジュールは…LL2の由来と成立ち10:30、星座と神話11:00、四季の星空11:30…」
「あ、それそれ!四季の星空!」
「じゃあ5分後だね。トイレ平気?」
「子どもかっ。はじまっちゃうじゃん早く早く!」
「いやそれめっちゃ子供の反応じゃない…?」
ぼやく素振りをしつつも、女子に手を引かれてせがまれれば健康な一般高校生男子としては悪い気はしない。
「あら、先客がいるね」
見れば初老の男性とご夫人が、連れだって後ろの方の列に座っている。
「あの人たちもこれ見に来たのかなぁ…」
「どの辺に座りますかね、お姫様」
「下僕よ、世間の常識では後ろの方が楽だそうじゃが今宵は満点の星空を堪能に来たというたであろう。無論前列ど真ん中じゃ!」
「へいへいかしこまり?」
並んで最前列に腰を下ろす。座席は深くリクライニングできるようになっており、あたかもビーチベッドに寝そべるような姿勢を取ることになる。
「うわ、すごい快適だなこの椅子。持って帰りたい」
「ずいぶん広いんだね君の家」
「いや無理っす。置けないっす。言ってみただけっす。親父の部屋潰せば一脚くらいは何とか」
「検討しないの。でもホント快適だね。寝ちゃいそ」
「散々せがんで見に来て寝てて結局見てませんでした、ってオチは無しでお願いします」
ヘッドレストは楽な姿勢をとれるようにという配慮からか深く造られており、寝たままでは隣の席を窺うことは難しい。
「フームこれではうるわしの姫君の御尊顔も拝めませんな」
「美しいものを得るには苦労はつきものじゃぞ」
「自尊心フルチャージで結構なことですな…ねえ」
「なに?」
「なんでわざわざこんなもの見に来たの?…言いたくなかったらいいけど」
「…知っておきたかったんだ」
「何を」
「こうなる前の、私達が見たことのない空を」
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