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「エリックよ、とんでもないことをしてくれたなー。わしの顔が台無しじゃないか」
エリックは目を丸くして驚きました。
「……時計さん、きみが話しているの?」
「ああ、そうさ」
「ごめんなさい、時計さんを壊しちゃった」
「いいってことよ。だが、このままの顔じゃわしもつらい。さっそくじゃがフラワー森の奥にあるブラックチェリー川の先のモグラーニ博士の家へ連れてっておくれ」
「モグラーニ博士?」
「ちょっと風変わりな博士さ。わしはそこで作られたんじゃよ」
エリックは割れたガラスの破片を拾い集め、直そうとしました。ですがこれだけ割れてしまったら直しようがありません。
「やっぱり僕じゃなおせないや」
「ああ、ムリだろうな。わしは特殊なつくりで出来てる時計なんじゃ。モグラーニ博士にしか直せないんじゃよ」
「でもブラックチェリー川の先には怪物が住んでいるって噂だよ。食べられたらどうするの?」
「おまえさん、怪物なんかが怖いのか?」
「そんなことあるわけないさ!僕はもう来年から学校へ行くんだから!」
「そうか、それなら決まりだ。それからな、大事なことなんだが、もしもわしが止まってしまったら、
この世のすべての時間が止まってしまうんだ」
「それはほんと?」
「ああ、ほんとさ」
「そしたら、もう誰も動かなくなっちゃうってこと?」
「動かなくなるし、ずっと永遠に木も、鳥も、雲も、そのままだ」
「今すぐ僕をそこへ案内してよ」
「わかった。なるべく早く出発してくれ。でないと暗くなってしまうからな」
下の階からまたお母さんの声が聞こえてきました。
「エリック、さっきの音はなぁに?」
「大丈夫、ちょっとおもちゃを落としちゃっただけだよー」
さぁ大変です。夕方にはお兄ちゃんが帰ってきます。
もしお兄ちゃんに時計を壊してしまったことがわかれば、きっと怒られてしまうでしょう。
それよりも、時計が止まってしまったら、すべての世界が止まってしまうのです。
急がなくてはなりません。
エリックは時計を自分のリュックサックに詰め込むと、お母さんのいる一階へ降りていきました。
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