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色々と考えていると、倦怠感で溢れていたはずの身体の中に、
絶妙な緊張感と高揚感が、腹の底から沸き上がってきた。
僕は興奮していた。
気持ち悪いほど何の変哲もない生活の中に、
淡い光が差し込んだような感覚。
台風が来る前の、異常な天気の良さのような、
なんとも言えない感覚だった。
こういう事は考えても仕方がない。
〈わかりました〉
とだけ返信し、部屋着に着替えていると、
プリンターからガコンという鈍い音が鳴った。
驚いてそちら側を向くと、
今日撮った写真達が規則的に床に流れ出していた。
いつもの癖でカメラは既にコードで繋がれ、現像を開始していた。
日頃の癖というのは怖い。
そう思いながら床に座り込み、日記の続きに写真を差し込む。
そこでやはり手が止まったのは、あの彼女の写真だった。
僕が今まで撮った写真達の中で、一番綺麗だった。
どんな風景よりも、どんな日常よりも、何よりも綺麗だった。
深くため息をつき、
「行くか」
と、自らを鼓舞するように声を出し、
僕は、これから未知の世界に踏み込んでいくために腹を括った。
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