お兄ちゃんを振り向かせたい妹の話

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お兄ちゃんを振り向かせたい妹の話

 沙絵子は不満に思っていた。「いってらっしゃい」と眉をひそめて浩太を送り出した。土曜日の朝、大好きなお兄ちゃんは恋人とデートらしい。明日もお昼すぎから映画を見に行くのだと言った。「その映画、私も見てみたいって言ってたじゃん」と言うと、「友達と見に行けばいいだろ」とはぐらかす。  最近、お兄ちゃんが私に構ってくれない。  それが沙絵子の不満だった。浩太の好きな音楽は自分も聴いた。浩太の趣味を、自分も好きになるように努力した。テニスを始めたのもそのためだし。わけのわからない文学小説を読破したのもそのためだし。バレンタインデーには、毎年手作りのチョコをプレゼントしている。でも、小学生のときみたいに毎日遊んでくれなくなった。部活とか友達とかならまだ許すことができた。しかしあるまじきことに、高校に入学してから、浩太に二番目の彼女ができたのだ。城ヶ崎杏珠という名前の……ちょっとだけ美人な女の人。自分も話したことがあるけれど……ちょっとだけ優しかった女の人。浩太は杏珠にベタ惚れしている。     
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