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沙絵子は焦った。このままでは、大好きなお兄ちゃんが自分のそばから離れていってしまう。何かきっかけを見つけなければ。そんな気持ちで、沙絵子はとうとう浩太の部屋に忍び込んでしまった。
「お兄ちゃん、やっぱりかっこいいなあ」
沙絵子は一人でつぶやいた。本棚には有名な文豪の書いた小説や、脳科学の本からスポーツ雑誌まで、様々な本が置いてあった。きっちり整理整頓ができていて綺麗な部屋。勉強机には、教科書や参考書がジャンルごとに区分けして置いてある。
(優しいし、格好いいし、勉強もスポーツもできるし……)
学校のマドンナが付き合うというのも無理のない話だ。行き過ぎたストーカーか泥棒みたいに、沙絵子はクローゼットの中を漁った。お兄ちゃんのいい匂いがする、と変態じみたことを考えながら漁った。すると、いろいろな紙の入ったプラスチックの箱を見つける。中からは、浩太が小学生くらいのころに描いた絵が多く見られた。
(お兄ちゃん……かわいい……)
そんなことを思いながら見ていると、沙絵子はあるものを見つける。
『俺と優子との恋愛事情』
と題された自作小説だった。優子とは、浩太が中学のときに付き合っていた彼女の名前だ。美人だけど愛想が悪くて裏表あったし、まあすぐ別れるだろうな、とは思っていたけれど、浩太は短い間、優子という女に熱中してこんなに気持ちの悪い自作小説まで書いたのだ。
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