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「お前、どうしてそれを……」
「お兄ちゃんの部屋を探してたら見つけたんだー。この痛い自作小説、月曜日に杏珠さんに見せてやるんだから」
「させるか!」
取り返そうと手を伸ばすものの、沙絵子はひょいとかわして、それを自分の服の中に入れる。
「おい、卑怯だぞ」
「いいよぉ、お兄ちゃん」と沙絵子は甘ったるい口調で言う。「触りたかったら、私の体、好きなだけ触らせてあげる」
「おい、沙絵子、あんまり兄貴を舐めるんじゃないぞ」
浩太はできるだけ怖い顔をしながら沙絵子に歩み寄る。いつもと違う浩太の様子に、沙絵子は生唾を飲み込んだ。そして眼前まで迫ると、凄まじい勢いで沙絵子の背後の窓を指さす。
「あっ! 窓にゴキブリはりついてる!」
「えっ、うそっ!」
「隙アリッ!」
沙絵子が驚いて体の力を抜いた瞬間、浩太は勢いよく彼女の手をはたきおとした。自作小説が沙絵子の服からするりと落ちてくる。
「もらったぁ!」
「ぐっ……! させないっ……!」
テニスで身につけた足腰が役立ったのか、沙絵子は振り向きざまに足払いをして浩太を転ばせた。沙絵子は素早い動きで本を手に取る。沙絵子は得意げに笑みを浮かべる。
「おそろしく速い手刀。私じゃなきゃ見逃しちゃうね」
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