老女

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 夕暮れ時の公園であった出来事だ。  噴水脇のベンチにひとりの老女が座っていた。肩ほどまでの髪をうなじの後ろで括って、グレー一色の上下を着ていた。バッグも持たず、空の手を揃えた足の上に置き、しゃんと背筋を伸ばし、噴水の水が踊る様を見つめていた。  昼間は小春日和だったが、陽が落ちると風は一段と冷えて、ちゃんとコートを着ていても露出した頬や手がかじかんでくる。若いわたしでもそうなのに、年を召した方があんな薄い服では風邪をひいてしまわないか。気になって、わたしは老女に近づいた。 「こんばんは。どうかされましたか」  声をかけられ、一瞬老女は驚いた様子を見せたものの、すぐにおっとりとほほえんだ。 「人を待っているんです」 「待ち合わせですか。ここは寒いから、待ち合わせの方に連絡を取ってどこか喫茶店にでも行かれたらいかがですか」 「御親切にどうも。でも大丈夫、あたたかいから平気ですよ」  老女はそのグレーの服の上から腕をさすってみせた。福は遠目にはグレーに見えたが、間近で見ると艶のない銀色をしていた。胸の辺りにマークがある。赤の丸を細い円で幾重にも取り囲んだ模様だ。どこかのスポーツメーカーの商品だろうか。薄くてもあたたかな機能性素材を使用しているのかもしれない。
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