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   胃がもたれると言って寝室に向かった夫を、見に行ったりはしない。  あの寝室には入りたくないから。  かすかに、唸ってる声が聞こえるような気もしなくはないけれど。  テレビのボリュームを上げて、下らないニュースを眺める。    自営業だから、夫はずっと家にいる。  だから、朝昼晩とご飯を作る。  10年ほど前に始めた投資が上手くいって、小銭を稼いだらしい。  億単位で稼げなければ、儲けたとは言えないんだといつも言っている夫。  私は一万円の小遣いすら貰ってないけれど。  貰うのは、食費と着るものと化粧品のお金だけ。  日用雑貨や自分の着るものは、夫がネットで買っている。  だから、重い荷物を持つ買い物はしなくて済んでる。    結局、うちにお金が有るのか無いのかは、よくわからない。  買い物の残金は好きにしていいらしいので、雀の涙を積み上げてささやかな貯蓄をしているのだけど。  あなたの妹が持って行った5万円は、塵が積もって山となった釣銭なのよ。  できれば返して欲しいものだわ。  眠ったのか、夫は静かになった。  起きてくるまでそっとしておこう。起こすと機嫌悪くされるだけだもの。  海外と取引がどうとかで、昼夜逆の国とメールのやり取りをしているらしいから、眠ったときはそっとしておくに限る。  その間にきっと、生活習慣病ってやつもすくすく育つはずだしね。  30年。  経ってしまった。  尽くす素振りで、指折り数えて待ったのよ。  穏やかに暮らす素振りで、あなたが死ぬのをずっとずっと待ってたのよ。 そろそろその日が来たっていいんじゃない?  私も自由になりたいのよ。  ふふ。  幸子さん、あなたのお饅頭がお兄さんの最後の晩餐かもしれないわね。  ちょうどいいわ。  自分が作った食事のあとに逝っちゃったりしたら、夢見が悪いもの。
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