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    夕方寝室を見に行ったら、夫は冷たくなっていた。  急いで救急車を呼んで、親族に連絡して、病院へ向かってもらおう。  葬儀の間は悲しさと、先立たれた悔しさを纏うんだわ。  あの日見た光景を脳裏に再現しながら。  あの時感じた、  足元から崩れそうになるような衝撃を思い出して。  溢れる涙が、途方にくれる未亡人らしく見えるよう振る舞いながら。  あなたの巨体が火葬場で、異界へと続く扉をくぐる時には、意識すら失ってもいいんじゃないかしら。  それにしても。病院に駆けつけてからというもの、ずっと泣き叫んでる義妹がうるさすぎて苛々する。  湯灌、納棺、通夜、葬儀。  事あるごとに泣き叫ぶ義妹。  そろそろ、泣き過ぎで何か変だと周囲も気づく頃。 「幸子さん、ご主人に先立たれてからお兄さんだけが頼りだったものねえ」 「昔から仲のいい兄妹だったしね」 「でも、ずっと一緒に居たわよね、お兄さんが結婚するまで」 「ああ、そうかも。案外怪しかったりして」 「しっ、ちょっと不謹慎だわよ、ここじゃ」 「あっ、そうだったわね」 「あとでファミレスでも寄ってく?」  言わないこっちゃない。口さがない連中が他人とは限らないのよ。  身内だって虎視眈々と、面白いネタを探してるのよ。  だから、隠し事は細心の注意を払って実行するべきなのよ。  邪魔されないようにね。  詰めが甘いわ、幸子さん。  ええ。昔から、ね。
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