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あの日。
まだ結婚して一か月も経たない頃。
子供ができるまでは結婚前の職場で、そのまま働いていてもいいって言われてた。
普段なら平日だけの勤務だったんだけど、季節柄お歳暮とクリスマス商戦に巻き込まれて、師走は土日も出勤を要請されて。
夫に相談したら、快諾してくれた。
ほっとしながら出勤したものの、まだ12月も1週目だったせいか売り場は落ち着いていて、午後帰宅していいと言われたんだった。
今ならまだお昼ご飯を作ってあげられる。
そう思って急いで玄関を開けたのよ。
靴を脱ごうと思ったら、真っ赤なハイヒールがあっちとこっちに投げてあった。
義妹が用事で急いでたのかしら。
いやだ、何かあったのかしら。
不安になって急いで部屋に入ったら、ソファーにピンクのコートが脱ぎ捨てられていたんだわ。
二人の姿が見えなくて、でも探す必要もなく居場所は分かった。
寝室の扉が少し開いていて。
私たちのダブルベッドの上に、兄と妹は居たんだわ。
毛布の中で、あなたの身体の下から伸びる細く華奢な脚の白さ。
30年過ぎても忘れられない衝撃の色。
真っ昼間に、恥ずかしげもなく大きな声を上げる妹。
リズミカルに軋むベッドの音。
私が悪いわけでもないのに、激しい頭痛がして血の気が引いた。
手も足も力が入らなくて座り込んでしまいそうになりながら、音を立てないように後ずさってリビングを出て。
隣町のデパート、それからパチンコ屋、最後はファミレスで朝を待って、家に戻ったあの日。
一人、深夜のファミレスでずっと考えて居たわ。
職場で私を見染めたんだって言ってた、あれは嘘だったの?
ずっと独り身で居るのは都合悪いから、仕方なく私と結婚したの?
妹と睦まじく過ごす為の隠れ蓑にされたんだ、私。
そう思った時に、殺意が芽生えた。
その芽はゆっくりゆっくり育って、漸く花が咲いたんだわ。
おめでとう、私。
あとは、アレを待つだけね。
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