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いつもと変わりない朝。
整えたテーブルで夫は食事する。野菜の欠片一つ残さぬように、たいらげる。
「ゆっくり噛んで召し上がってくださいね」
「うん、そうしとるよ」
クチャクチャと音を立て、中を見せながら咀嚼する汚らしい口元。
食事のたびに反吐が出そうになる。
けれど、穏やかな風を装って。
「お茶、淹れましょうか」
「うん、頼む」
静寂を破り、お茶をズルズルとすする下品な音が響く。
子供のいない我が家の日常は、淡々と過ぎる。
「お口に合いましたか」
「うん」
「そう、よかった。ああ、昨日いただいたお饅頭ありますけど召し上がりますか、幸子さんから頂いたの」
「ほう、珍しいな。幸子、来たのか」
「ええ。少し貸して欲しいって。5万ほど用立てておきました」
「そうか。すまんな」
「いえ、あなたの稼いでくれたお金ですもの」
「うん、そうか」
やっぱりそう思ってるんだ、自分が稼いだお金って。
私も、養ってやってると思われてる。
だから、その分美味しいもの食べさせてあげてるでしょ。
家事も何一つさせず、家の中でゴロゴロさせてあげてるでしょ。
そう、それでいいのよ。
あなたは、それでいいの。
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