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声色から、言葉の前に隠れた”ただの”という言葉を読み取ったのだろう、僕の問いかけに頷いて、そう言葉を連ねる少女の考えと、言葉の意味はその時には理解ができなかった。言葉の意味を考えているとそれに気付いたのか少女は再び口を開く、それと同時に白い息が漏れる。
少女「ここは私の大切な場所なの」
大切な場所、思い出がある場所という意味だろうか、ではなぜその場所を自分を写さず撮るのだろうか、疑問に思った。彼女とは違い写真というものに全くと言ってもいいほど関心を抱いてないからだろうか、自分の中で写真とは思い出を残すもので誰かと一緒に景色は背景と一緒に楽しく写るものだという固定概念がある、と考えた後、意味を探ろうと彼女の顔を窺ってみると一瞬だけ見せた悲しそうな表情にまた目を逸らしてしまう。
少女「私、死ぬんだ。」
少年「…え?」
突然のカミングアウトに思考が停止し、それが表に出るように間抜けな声が出る。だが思考はすぐに回復を見せた。驚いた表情を浮かべ何も言えず彼女を見つめ固まっている僕を見つめた後、彼女は僕を気に掛けることもなく続ける
少女「学校の帰路や、大切な場所、
それ以外も心に残ったもの全部写真に撮ってるんだ。」
少女「そこに私はいらないの」
僕の心を完璧に見透かしたような返事が返ってくる。どうやら彼女には余命があって、あと少しで命は消えてしまうという。カメラのフォルダーの中の溢れる思い出は自分自身が死んだ後も残ってほしい思い出だ、そこに自分はいらないと彼女が言った。
目の前の彼女は此方を見て何も言わせないというような笑みを浮かべていた。
望み通り、いや…僕は何もいうことができなかった。
逸らすことなく彼女の顔を見つめていると、雪が彼女の目の下に落ち、溶けて、液体と化し流れ落ちた光景は涙のように見えた。
彼女のカミングアウトは僕の微かな君への恋心を読み取ってだろうか、その告白を聞いた僕は一生思いを伝えられない、伝えさせてはくれないまま、
君の命も、僕の恋心も、きっと雪のように儚く、溶けていつかなくなるのだろう。
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