【第6話】『雨』

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「……おそい。」 「何が?」  そのころ控え室では、タケルがケイのトイレが長すぎることに腹を立てていた。 「何やってんだあいつ。」 「確かにちょっと遅いなぁ。清算も終わっちゃったし。んー、ついでに散歩でも行ったんじゃない?もうちょっと待ってみれば。」 「人を待たせとんや。早く行かなあかんねん。」 「誰?人って」  訪ねるリョウにアツシはため息をつきながら言った。 「分かってないねぇリョウちゃん。タケルがこんなにまで急いでるって事は女に決まってんじゃん。なぁ、タケル?」 「………」 「そうなの!?え、前タケルが送っていったあの子?」 「……そう」 「え、マジで!名前なんて言うの?」 「やだ。」 「もったいぶるなよー」 「…サヤ」 「サヤちゃんかぁ、カワイいよなあの子。今日もライブ来てくれてたし。ね、タケル、俺にもサヤちゃん紹介してよ!」  しつこく言ってくるリョウをタケルは冷たい目で睨み付けた。 「リョウちゃん、今のタケルにそういう事を言うのは自殺行為やで。」 「じょ、冗談に決まってんじゃん。」  笑いながら言うアツシとリョウ。 「それにしてもなぁ…なぁんか今日対バンしたバンドの一人…見た事あるねんなぁ。」  アツシは誰だっけなぁと首を傾げた。 「同級生とかじゃないの?ガキの頃とかの。地元こっから近いんでしょ?ありえるって。」 「同級生………っ…!!」  リョウの言葉でアツシはハッと思い出した。と同時に激しく鳴り出す鼓動、悪寒。 「なんやねん。」  ハッとしたまま固まってしまったアツシにタケルが聞く。するとアツシは小さな声で言った。 「……やばい…」 「あ?何が?」 「もしかすると…いや、絶対そう…。」 「だから何がやねんって!!」  アツシはタケルの両腕を掴んで大声を出した。 「ケイがやばい!!」  何の事か分からなかったが、アツシの震える様な声が本番前の出来事を思い出させた。 「……っんだよそれ!!」  タケルはアツシの手を降りはらって楽屋を飛び出した。  何故もっと早く気づかなかったのだろうか。タケルはただ一目散にトイレへと走って行った。  お願いだから無事で…ケイ…!!
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