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「……おそい。」
「何が?」
そのころ控え室では、タケルがケイのトイレが長すぎることに腹を立てていた。
「何やってんだあいつ。」
「確かにちょっと遅いなぁ。清算も終わっちゃったし。んー、ついでに散歩でも行ったんじゃない?もうちょっと待ってみれば。」
「人を待たせとんや。早く行かなあかんねん。」
「誰?人って」
訪ねるリョウにアツシはため息をつきながら言った。
「分かってないねぇリョウちゃん。タケルがこんなにまで急いでるって事は女に決まってんじゃん。なぁ、タケル?」
「………」
「そうなの!?え、前タケルが送っていったあの子?」
「……そう」
「え、マジで!名前なんて言うの?」
「やだ。」
「もったいぶるなよー」
「…サヤ」
「サヤちゃんかぁ、カワイいよなあの子。今日もライブ来てくれてたし。ね、タケル、俺にもサヤちゃん紹介してよ!」
しつこく言ってくるリョウをタケルは冷たい目で睨み付けた。
「リョウちゃん、今のタケルにそういう事を言うのは自殺行為やで。」
「じょ、冗談に決まってんじゃん。」
笑いながら言うアツシとリョウ。
「それにしてもなぁ…なぁんか今日対バンしたバンドの一人…見た事あるねんなぁ。」
アツシは誰だっけなぁと首を傾げた。
「同級生とかじゃないの?ガキの頃とかの。地元こっから近いんでしょ?ありえるって。」
「同級生………っ…!!」
リョウの言葉でアツシはハッと思い出した。と同時に激しく鳴り出す鼓動、悪寒。
「なんやねん。」
ハッとしたまま固まってしまったアツシにタケルが聞く。するとアツシは小さな声で言った。
「……やばい…」
「あ?何が?」
「もしかすると…いや、絶対そう…。」
「だから何がやねんって!!」
アツシはタケルの両腕を掴んで大声を出した。
「ケイがやばい!!」
何の事か分からなかったが、アツシの震える様な声が本番前の出来事を思い出させた。
「……っんだよそれ!!」
タケルはアツシの手を降りはらって楽屋を飛び出した。
何故もっと早く気づかなかったのだろうか。タケルはただ一目散にトイレへと走って行った。
お願いだから無事で…ケイ…!!
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