いつかまたこの絵本を

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セミの鳴き声に混じって、校庭からは子どもたちが遊ぶ声が聞こえてくる。この学校はエアコンを取り付けているので、外の嫌になるような暑さもこうして校内に入ってしまえば関係ない。僕は案内してくれている先生の後ろ姿を追いながら、若いってのはいいなと冗談っぽく呟いた。その瞬間に前を歩いていた先生がこちらを振り向いたので、聞こえたのかと少しドキッとしたがそうではないらしい。 「図書室に着きましたよ、玄関からは遠くてすみませんね」 そんな先生の言葉を聞き流す。 「時間になったら子どもたちを連れてきます。それまでもう少し待っていてくださいね」 そう言って先生は退室し、図書室には僕ひとりだけになった。僕はその場で周りを見渡した。 「やっぱり、似てる」 廊下から覗いたときにも思っていたことだが、この図書室は僕の母校の図書室によく似ていた。 よく似ていたせいだろう。僕は思い返していた。 忘れもしない、あの夏の日の出会いを。あの夏の日の約束を。 僕は外で遊ぼうとしない子どもだった。友達を作らず、いつも部屋のなかで本を読んでばかり。両親はそんな僕にもっと外で遊びなさい、お友だちを作りなさいと初めこそは口うるさくしていたが、諦めたのかいつしか何も言わないようになっていった。家でさえそんな様子なのだから、学校でも図書室にずっとこもっていた。活発で気が強いクラスの中心的なクラスメイトのことを苦手としていたこともあり、僕はますます内向的になっていった。 そんな僕が彼女と出会ったのは小学校6年生の夏のことだった。小学校6年生にもなると興味のある本は大方読み尽くしていた。たまにお気に入りの本を読み直すこともあったがとても退屈な日々だった。しかし、それまで一人として友達を作らず図書室に行ってばかりの僕に他の居場所なんてなかったので、退屈ではあったが図書室にいるしか僕に道はなかった。そんな僕に話しかける変わった者はいなかった。いないはずだった。 「ねえ、この絵本を読み聞かせてくれない?」 最初は僕に話しかけているだなんて思いもよらなかった。 「ねえ、ねえってば。無視しないでよ。君に言ってるんだよ」 「え?僕?」 「ここには君しかいないんだから、君に決まってるでしょ」
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