いつかまたこの絵本を

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だけど僕はやっぱり彼女のことを知りたかった。名前なんて別にわからなくたっていい。だけど僕は図書室以外の場所でも彼女と一緒に過ごしたかった。ふたりで時間を過ごすうちに僕は彼女に惹かれはじめていた。しかし、彼女に正面から聞いたところでまた誤魔化されてしまう。どうしようかと悩んだ末に、僕は少し思いきった策に出てみた。 昼休み、給食の片付けも終わって多くの生徒たちが思い思いに遊びまわる。校庭へと向かうその一団に僕は声をかけた。 「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「ん?なんだ?」 僕が声をかけたのはクラスの中心になってるグループの生徒たち。僕の声かけに返事をしたのはそのグループを取り仕切っている男の子、つまりはクラスで一番の中心人物だった。正直に言うと僕は彼が苦手だった。気の強い性格は僕の目には粗暴に写ったし、誰にでも分け隔てなく接する彼の言動は人と距離を置きたい僕にとってはごめん被りたいものだった。だが彼は顔の広さに関してはクラスはおろか学校で一番だった。彼ならばあの図書室の女の子のことを知っているかもしれないと思ったんだ。 「あの、女の子を探してて。その子とは図書室で会っていて、でもその子の事知らなくて。あっ、金色の綺麗な髪の子なんだけど」 今思えばこんなにもひどい説明はあったものじゃない。彼にとっては図書室で会うなんてのは知っていたも知らなくてもいい話だし、結局伝わったのは金髪という一点だけだ。こんな支離滅裂な質問にちゃんと答えようとしてくれるのも彼のいいところだ。当時はそんなこと思いもしなかったが。 何はともあれ彼は「金色の髪」という数少ない情報を逃さなかった。 「金色の髪の女の子?俺は知らないな。お前らは?」 そう尋ねた彼への周りの反応は 「そんな奴、おれは知らないぜ」 「同い年だったら絶対その子の噂聞かないはずないよ」 「年下だとしても同じでしょ?なんてったって金髪だもん」 「そもそもそんな奴、本当にいるのか?」 「確かに。あいつの妄想かも」 と、まあ酷いものだった。僕はこんな奴らに聞いたのがバカだったと立ち去ろうとすると取り仕切っていた男の子が周りにピシャリと言い放った。 「嘘じゃないし妄想なんかじゃない!こいつは絶対に本当のことを言ってる。絶対だ」 根拠なんてまったくない言葉だったが、彼のまっすぐな言葉はとても温かかった。
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