いつかまたこの絵本を

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僕たち、僕とその男の子は昼休みを彼女についての捜査に使った。捜査と言っても簡単なもので各学年各クラスを訪ねて、金髪の女の子を知っているかと尋ねてまわるだけだったが。たったそれだけでも彼の人望の厚さを思い知った。まさか1年生にまで顔が知られていて、しかも慕われているとは。しかし、その成果は出なかった。いや、「金髪の女の子なんてどの学年のどのクラスにもいないことを知った」というのがその昼休みの成果だった。 僕たちの捜査は放課後にも続いた。彼の推理では 「学校の生徒じゃないってことなら、図書室の先生の子どもとか親戚かも。図書室でしか会わないんだろう?とにかく放課後図書室に行って実際に会ってみないか?で、こっそり先生に聞いてみるんだ。良い案だろ?」 とのことだった。僕には考え付かない推理だった。しかし、これも空振りに終わった。僕たちが図書室に行ってみると、いつも僕より先に図書室で待っている彼女の姿はそこになかった。 図書室の先生に聞いてみると、「あら、そんな子いたかしら?親戚なんかじゃないよ。いくら先生でも学校に連れてきちゃ怒られちゃうからね。うちの生徒じゃないのかい?」と言われてしまった。僕はその日は大人しく家に帰ることにした。 次の日、彼は今日は習い事があるからということだったので僕だけで図書室に行くとそこには彼女がいた。実を言うともう彼女に会えないのではないかと不安に思っていたので彼女の姿を見てほっとした。 「なんで昨日は図書室に来なかったのさ」 そう彼女に尋ねるといかにもな返事が返ってきた。 「風邪をひいちゃってね。それより絵本を読み聞かせてよ」 それからも彼の都合のつく日に図書室に一緒に行くと、決まって彼女の姿はなかった。僕は不思議に思ったが彼女と一緒の時間を過ごせることに変わりがなかったのでそれほど不満には思わなかった。 そんな生活に変化が起きたのは、彼から一緒に遊ぼうと誘われたことがきっかけだった。僕は彼女のことが気がかりではあったが、彼女も姿を見せない日があったのだと理由をつけて、その日は図書室に行かなかった。彼との時間は楽しかった。彼はいつも僕を引っ張って僕が経験したことのない楽しみを教えてくれた。その日を境に彼から誘われることが多くなった。「たまに図書室へ行かない」というのがいつの間にか「たまに図書室へ行く」と変化していった。
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