いつかまたこの絵本を

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そうして毎日のように会っていた僕と彼女は、週に一度会えればいいようになり、そんな状態のなかで小学校最後の夏休みに突入した。学校の図書室は夏休み中はずっと閉館してばっかりで彼女と会う機会がなかった。その一方で僕はあの男の子とほとんど毎日遊んだ。あの夏休みは楽しかった。初めて友達と過ごす夏休みは今でもよく覚えている。そんな夏休みを過ごしているうちに、少しずつ少しずつ僕のなかでの彼女の存在感が薄れていった。長い長い夏休みの間、僕と彼女が会うことはなかった。 2学期が始まった。僕は彼女に会えるかもしれないという期待ともう彼女はいないのではないかという不安がない交ぜになっていた。2学期最初の登校日、放課後になるとすぐに図書室へと向かった。図書室への道すがら思わぬ人から声をかけられた。 「あら、ちょうどよかった。探してたのよ」 図書室の先生だった。 「先生、どうかしたんですか?」 「あなたにはちゃんと言っておこうと思ってね。あなたがよく読んでいた絵本、あったでしょう?」 僕はなんだか嫌な予感がした。 「あの絵本なんだけどね、明日から他の学校に行くことになったの」 なんでも、あまり読まれていない本を他の学校と交換をするらしい。その中にあの絵本が選ばれた。実際、あの絵本は僕と彼女くらいしか読んでいなかったし、夏休みに入る少し前には僕もほとんど読まなくなっていた。 僕は図書室へと走った。後ろから先生の注意が聞こえてきたが、そんなのは気にもしなかった。あの絵本がどこかへ行ってしまう前に彼女と一緒に読みたかった。そして彼女に謝りたかったんだ。ずっと会いに行かなくてごめんと。図書室の扉を開けるとあの頃のように彼女はそこにいた。僕が謝ろうとすると、それよりも早く彼女が口を開いた。 「ありがとう、それとごめんね」 僕が何をと聞くと、彼女は続けて言った。 「ありがとうはこの絵本を一緒に読んでくれて、会いに来てくれてありがとうってこと。ごめんねは」 そこで少し彼女は言いよどんだ。 「ごめんねは、もう君に会うことはできないんだ」 僕は目の前が真っ暗になった。彼女の言っている言葉の意味がわからなかった。 「この絵本がどこか別のところに行っちゃうことは知ってる?」 「うん、知ってるよ」 僕の声は自分でもわかるくらいに震えていた。
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