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19時半にこの景色を眺める生活が、もう3ヶ月続いている。通学バスの一番前、右側が私の特等席だ。窓の外で流れ生きていく人々は面白いし、運転席のボタンやレバー達も目に入る。だから今日、見知らぬ子供に特等席を取られた私は少しだけ拗ねながら後方に向かった。
右側最後列に座って、窓に頭を預けながら対向車線の車の群れを見つめていると、部活の疲れがどっと出てきた。私は高校でもテニスを続けていて、毎日この時間のこのバスで帰宅することにしている。小雨のなか部活は強行突破されたが、バスに乗った瞬間に本降りになってしまった。
曇った窓ガラスを意味もなく指でなぞる。第2関節が冷たくなってきた頃、私は眠りに落ちていた。
どんなに泥酔していても終電の音声を聞けば目が覚めるというがそれは正しかったようで、爆睡していた私もバスの到着アナウンスに揺り起こされた。カバンを引っ掴み、一歩踏み出してから忘れかけた傘を引っ掴み、通路をずかずか歩きながら定期券を取り出す。こんな日に限って後ろの座席だから、降車口が遠い。「おりま、す」私の声は濡れた靴の擦れる音にかき消された。もう次のお客さんが乗車し始めている。滑りそうな床にも気を配ると、何となく見慣れた誰かの傘が目に入った。見慣れた傘と見慣れぬシューズ、見慣れぬジャージに身を包んだのは、ちょっと大人びたけれど見慣れた顔、志織だった。
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