52人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっ!いたいた~」
レモンティーを頬張る変顔の私に語りかける人物。
「相変わらず臭いわね!この部屋っ!
そうそうっ!ところでどぉだった?K市からの初出勤は?」
凉祢先輩はタバコ臭のこびりついたこの部屋の中、鼻を摘まみながら私に尋ねてきた。
『いやもうっ!最悪でしたよ!
物は試しでK駅07:04発の列車に乗りましたけど全然座れないからずっと立ちっぱなし状態でしたよ💦』
「『列車』って、何か柚里香ってさぁ、たまにオジサンっぽい言い方するよね」
私が本物の柚里香でないことを職場内で唯一知っている凉祢先輩だが、その先輩にすら、まだ私の正体を明かしてはいない。
しかしながら、凉祢先輩には本当の事を打ち明けなければいけないという約束がある。
今こうして、私がK市から通勤できるようになったのも先輩が彼女独自のルートで賃貸物件を探し、なおかつ契約締結に不可欠な保証人にもなってくれたということ。
云うなればこれは、ただ単に私の欲求を具現化させるために、私の正体を教えるという、先輩には何の徳もない身勝手な交換条件なのだ。
しかし、それでも彼女は快く引き受けてくれた。
今一度想う。
この人が本当の上司であったならば、あの頃の私はどれだけ救われただろうかと・・・。
最初のコメントを投稿しよう!