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先代から向かうところ敵なしだった伯爵家。
だが、近郊の貴族たちは吸収淘汰しつつ徐々に勢力を伸ばしつつあった。
その中で生まれた不吉の象徴である双子を知られるわけにはいかない。
それでも産んだ母としてはどちらも我が子だ。
生まれた赤ん坊を診ているバシリウス医師が「おぉ……」と沈痛な声を出した。
「バシリウス?」
「奥様…この赤ん坊は……赤い目をした赤ん坊は目が見えておりません」
「え?」
「光に反応しないのです、目が。それに泣き方がまだ弱い。きっと長くは生きないでしょう」
その瞬間に運命は決まった。
双子の片割れはどこか遠くにやられるか、後々世継ぎ問題の火種を懸念して殺される。
夫人はカロレッタ以外を部屋の外に下がらせた。
「カロレッタ…この子は目が見えない……そして長くは生きられない…。憐れです、遠くにやるのも殺すのも。見えないのは幸いです。この地下で育ててください。今日生まれた子どもは1人です。誰にも知られてはいけない、この子の存在を。あなたが遠くにやったことにしてください、お願い」
「バシリウス医師にも秘密に?」
「皆に、秘密に」
「病にかかったら?」
「それは運命です。こちらの子を……ルクスと名付けましょう」
「弟君を光の子と?」
「そしてこの子は……ノクス」
「奥さま! それはあまりです…何もかも失うのに『無』なのですか?」
「憐れだけれど…この子はそういう運命だから」
ノクスを託されたカロレッタは、大きな柔らかい布に包んで反対側のドアから階段に向かった。そして地下へと下りて行った。
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