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「子羊の肉と、フルーツのシロップ漬けをカロレッタが出してくれたんだ! 美味しかったよ、ルクスと一緒に食べたいと思った」
その笑顔が苦しかった。決して目が合うことは無い。けれど自分に向けられる笑顔に強く惹きつけられた。そして思ってはいけないことが心に浮かんだ。
(可哀そうに! どうしてノクスには何も無いんだ!! シロップ漬けなんか…いくらでも持ってきてやるのに!)
思わず抱き締めた。涙が落ちた。体が震えた。
「どうしたの? ルクス、風邪引いた? ねぇ、どうしたの?」
ノクスが一生懸命に背中をさする。少し熱を帯びたその優しい手がルクスは辛かった。
次の日にはノクスの熱が下がっていた。
「外、行きたい」
「熱が下がったばかりじゃだめだよ」
「平気。川の水を触りたいんだ」
今は春だ。もう風は冷たくは無い。
「じゃ、ちょっとだけだよ。寒くはないけど水はまだ冷たいからね」
「ありがとう」
ルクスはここに来る時にいつも靴を持ってくる。掃除をされるから置いておくことは出来ない。
「ふわふわするようなら僕の肩に掴まって」
ゆっくり立たせて外へと向かった。
「風が気持ちいい! ね、ルクス、そう思わない?」
ルクスは時々恥じる。そういうものに有難みを感じない方が多い。けれどノクスといると自分がどれだけ幸せに満たされているのかを思い知らされる。
ノクスはこんなことで満たされる幸福感を、いつも素直にルクスに見せた。
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