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「美しいお子様だ」
皆がこぞって誉めそやした。6歳になったルクスはキリリと結んだ口で父の後ろの馬に乗り、衛兵に手綱を引かれていた。
「ルクス。馬は気に入ったか?」
「はい、父上」
「そうか。お前は賢い。たくさん勉強して良い主となるのだ」
「民はみな父上を敬っているのですね」
「そしてお前は皆に愛されている。民を大事にするのだぞ」
「はい」
母とカロレッタだけが知るノクスの存在。
青空の下、馬で闊歩する父子のはるか地下で何も知らぬままノクスは生きていた。
「ノクス? どこ?」
蝋燭を持ったカロレッタが呼びかけながら明かりの乏しい地下の部屋を歩き回った。
そこは広くて調度品は揃っていたけれど、ざわつく音も聞こえず時折カロレッタと、カロレッタが見込んだ口の堅いオードリーという下女だけがノクスの世話をしていた。
オードリーは16歳。ノクスを憐れみはしたけれど、その出自も知らず、暗いせいで顔も定かに見ていない。
オードリーは主に入浴と着替え、ベッドメイキング、洗濯など。
食事や勉強、話し相手はほとんどカロレッタが務めていた。
「ノクス、返事をして」
「カロレッタ?」
「どこ?」
「ここ。ちょっと隠れてみたの」
柱の陰からノクスが姿を現した。
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