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「行こう! ノクス、君は……兄上は僕が守る!!」
「ルクス?」
靴が無い。ルクスは細い体を背中に載せた。
「しっかり掴まって! 敵はまだ大勢いる、ここを出るぞ!」
ノクスは分からないまましっかりとルクスに掴まった。逞しい背中だった。自分の体とまるで違う……
透き通る滑らかな肌、細い手足。どこから見てもまるで少女のようなノクス。一卵性双生児だから対のはずが、ルクスは逞しく、ノクスは儚げだった。
外に出ると剣の交わる音は遠くに聞こえた。今なら外に逃げられる。その時に怒声が聞こえた。
「伯爵を打ち取ったぞ!!!」
思わず足が止まった。父の元に走りたい衝動に駆られる。行って、その輩を倒さねば!
「ルクス、どうなってるの? 血の匂いがする、たくさんの。ルクスからも」
その声で現実に呼び戻された。
(ノクスを、兄を守らなければ! 知らなかった、僕のたった一人の兄がこんな目に遭って生きていたなんて……)
もっと早く知っていれば。涙が滲みそうになるのを堪えた。
(こうなればノクスを守り通す!)
父も死に、妻も死んだ。兵たちもどうなっているのか分からない。あちこちの農家が燃え盛り、民の逃げ惑う叫び声が聞こえる。
(済まない! 今は、今は……)
ノクスを背負って闇の中を進んだ。今、自分に残された道はこれしかなかった。
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