誕生

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  「ま、いけない子。今日はピアノを弾かないの?」 「うん。今日はあっちから風が入ってくるからそれで楽しんでた」 「そう。はい、ここに食事を置くわ」  見えないのが当たり前のノクスは恐ろしく勘がいい。ちょっとした音、匂い、空気の流れ。そんなものに敏感に反応する。 「カロレッタ、香水の匂い、違う?」 「ええ、今日は違うのにしたの」 「昨日までのが好き」 「あら、これはだめ?」 「いいけど……前の方がいい」 食事の方に顔を向ける。 「また、シチュー?」 「食べないなら持って行くわ」 「食べる! でも昨日もシチューだった」 「ごめんなさい。けれど今日はこれも持ってきたから」 服の中に隠し持ってきたチョコレートを出した。途端に鼻がヒクヒクする。 「甘い匂い!」 「チョコレートというの。滅多に持ってこられないから、ゆっくり食べて。あ、シチューの後にね」 「はい!」 「じゃ、食べ終わるまでいるから。お水はここよ」  話すのも触れ合うのも常にカロレッタとオードリーだけ。ノクスの世界は3人で構成されていた。  
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