シロ・クロ・アカ

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シロ・クロ・アカ

「あなたも、タンチョウを撮りに来たんですか?」  不意にかけられた声に、私はドキリとして思わず声の方を振り返った。  そこには美しい黒髪のロングヘアをなびかせた女性が立っていた。  微笑みながら私に話しかけてくる。 「私以外にここで写真を撮っている人、はじめて見ました」 「はい。私も、初めてです」  私は咄嗟に返す言葉が見つからず、ぶっきらぼうな返事をしてしまう。    ここはタンチョウが撮影できる、とっておきのスポットだった。近くの撮影場所はどこも最近SNSで情報が拡散し、本州から大量のカメラマンがやってくるようになってしまった。そんな中、ここはまだ誰にも見つけられていない穴場だった。  この女性は地元の人だろうか。それにしてはニット帽にスキーウェアという私以上の完全防寒対策をしている。それに、車が停められる場所からかなり歩くのに、薄く積もった雪面に私以外の足跡が見当たらなかった。 「あ、来ましたよ」  女性に言われて前方を向くと、タンチョウの群れが飛来してきてた。ひとまず女性について考えるのは止め、私はシャッターを切るのに専念する。  ファインダー越しのタンチョウ達の美しい白・黒・赤のコントラストに、ふと隣の女性の服装も同じ色だな、と思った時。  一斉にタンチョウ達が飛び立つ。  最高のシャッターチャンス。普段は撮り逃してしまうこともあるほど一瞬の間が、今日はとても長く感じられた。  天高く舞って行ったタンチョウ達を見送った私がカメラを下ろし、横を向く。 「撮れました、か……?」  振り向いたその先に、女性の姿はなかった。    赤いニット帽だけが、その場に落ちていた。
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