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『嬉しいもんじゃないのか、って聞きたくてな』
「どういうこと?」
『雪女の雪子さんにとっては、白雪ばかりの景色は、居心地がいいんじゃねえかなって。なのに、俺に景色を切り取ってくれって頼んだだろ。なんでだ?』
……はてさて。
この星を包み込んでいる白い欠片を、雪と呼んでいいものか。
全ての生命をむさぼり尽くす、宇宙からの来訪者。
なぜか雪に対するように、雪女の私には、抵抗力があったけれど。
(――嫌いじゃないけれど、でも、白くなりたいわけじゃない)
雪女として、人の温もりを求め、まれに営みを共有したのは、なぜだったのか。
「好きと嫌いは似ているっていうし、光と闇って概念、みんな好きだったでしょ」
ぎこちなくレンズをひそめるカメラに、私は微笑む。
たぶん、ちょっと苦みのある、恋に破れた顔つきで。
「白くあるためには、他の色が欲しくなるものなの。真っ白だと、雪だって、呼んでもらえないものね?」
『……確かに、全てが一つなら、写す景色も必要ねぇかもなぁ』
君も想うところがあったのか、深く頷く。
『真夏の陽が差しこむ景色とか、前の持ち主は、大好きだったよ』
「あっ、でも暑いのはやだなぁ」
『やなのか』
「厚着しても、雪女なので」
くくく、と、身体をふるわせ笑う君。
『じゃあ、俺もらしくあろうか。カメラとして、まだ残った景色を写しにな?』
「……ありがとう」
白さが増す周囲のなか、かすかに見えた輪郭を見つける。
それはおそらく、かつてこの星が描いた、山の稜線。
乾いた音が耳に反響し、カメラのシャッターが、景色を切り取る。
残されたのは、ほとんどわからない、白の景色。
……でも、かつて山があったという意思のある、白だけじゃない陰影だ。
さぁ。
全てが白になる前に。
この星の欠片を、拾いに行こう。
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