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前編
君は何年経っても、飽きずにここにやってくるよね。
一人で楽しそうにへらへら笑ってさ。あれだけ悲壮な顔で泣き腫らしてばかりいたのに、それがいつの間にやら綺麗な笑顔を作れるようになった。
僕は知っているよ。君がそうやって笑うのも、僕にではなくて、君を置いていったマサキって奴のためだって。
でもさ、マサキはもう戻ってこないんだろ?
二度と会えない奴のために、飽きずに僕のもとにやって来て話したいだけ話して帰っていく。聞いてるこっちの身にもなってくれよ。
視界の端に、小さな体に落ち着いた色合いの洋服を身にまとって小さな花束を持った女性が目に写る。雪を被ったような髪に、ますます老けたなぁなんて思うけど、そんな事言ったら女性に失礼だと窘められそうだ。
やれやれと僕はまた性懲りもなく訪れた君を見て、愛想笑いを浮かべた。僕の前にまで来た君は、挨拶もそこそこに手土産の花束を丁寧に花瓶に差しながら話しはじめた。
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